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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1595号 判決 1982年5月27日

控訴人 山本雄次

被控訴人 野中直泰

主文

原判決中控訴人敗訴部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、控訴人が乙第一、第二号証を提出し、当審における控訴本人尋問の結果を援用し、被控訴代理人が乙第一、第二号証の各成立は不知と述べたほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決末尾添付の物件目録(一)記載のユニプライの売買契約に基づく代金請求のみに関する部分を除く。)。

理由

一  控訴人が訴外日本ユニツク株式会社の営業担当専務取締役としてその営業取引全般について対内的にも対外的にも一切の権限を有していたこと、昭和五二年一一月四日控訴人が訴外会社のため被控訴人との間で原判決末尾添付物件目録(二)ないし(四)記載のユニプライを代金合計三九八万六五〇〇円、右ユニプライは訴外会社が指定する場所に被控訴人が持参して引き渡し、それに要する運送賃は訴外会社の負担とするとの約定の下に買受ける旨の契約をしたこと、被控訴人は同月五日訴外会社が指定した愛知県海部郡蟹江村昭和化学株式会社蟹江工場に右ユニプライを持参して引き渡したこと、その際被控訴人は訴外有限会社鉄興運輸にその運送を依頼し、同年一二月二九日同会社にその代金五万円を支払つたこと、訴外会社が昭和五一年末頃から経営不振の状況にあつたこと、訴外会社が昭和五二年一一月五日手形の不渡りを出したこと、以上はいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで控訴人に商法二六六条ノ三による損害賠償義務があるかどうかを検討する。

1  控訴人が昭和五二年一一月四日訴外会社のため被控訴人との間で前記売買契約をした際、売買代金等が支払不能となることを知つていたと認めるに足りる証拠はない。

2  当審における控訴本人尋問の結果により成立を認めうる乙第一、第二号証、原審証人竹井治幹(以下の認定に反する部分を除く。)及び同新井正寿の各証言、原審における被控訴本人並びに原審及び当審における控訴本人の各尋問の結果を総合すると、訴外会社はアルミニウム関係の建材の製造販売を業とする会社で、製造はすべて下請を使つており、被控訴人もその下請の一であつて昭和四八年から取引があること、被控訴人は昭和四三年頃訴外会社に営業部長として入社し昭和四八年頃専務取締役になつたこと、訴外会社の代表取締役は竹井治幹で同社の経営を主宰していたが営業は殆ど控訴人にまかせており、取締役としてはほかに馬場雅二がいて経理を担当していたこと、訴外会社が昭和五一年末頃から経営不振の状況になつたのは、訴外会社が昭和五〇年頃から竹井の担当でインドネシアにアルミフエンスの材料を輸出して現地生産する事業を始めたが、その輸出代金の支払が滞つたため、右材料を仕入れた株式会社ヨーダイに対し約七〇〇〇万円の買掛債務が履行できなくなつたことと、右事業の貿易手続を代行させるため竹井が代表者となつて設立した子会社エス・イー・エーの人件費等の経費を訴外会社が負担したことが原因であり、それ以外の営業はほぼ順調であつたこと、ヨーダイは、右インドネシアへの輸出については訴外会社と共同事業者的立場にあつたので、昭和五二年に入つても右買掛債務の履行を猶予していたこと、その後も訴外会社の経営状態は好転せず資金繰りが苦しかつたので、竹井はヨーダイに対し右買掛債務の履行の猶予を当分続行するとともに訴外会社の金融に便宜を図るよう求めて交渉をしていたこと、竹井は控訴人に対し同年九月頃右交渉がまとまる見込みであると伝えたが、その後は交渉の経過を知らせていないこと、訴外会社の支払手形のうち一一月五日が満期であるものが額面総額で約二二四〇万円あつたが、一〇月末までに営業担当者が売掛債権の回收等により受取手形を含め約二七〇〇万円を集めたので、控訴人、竹井、馬場とも一一月五日が満期である約二二四〇万円の支払手形については決算資金が用意できたことを確認したこと、控訴人は一一月初め頃でも訴外会社は少くともなお半年位は営業を継続し倒産することはないと考えていたこと、ところが、竹井は一存で一〇月末頃ヨーダイとの交渉を打ち切り、前記の、手形の決済資金として集められた額面合計約二五六〇万円の手形をヨーダイに支払のため交付したこと、控訴人は竹井が右手形をヨーダイに交付したことは知らず、一一月二日に被控訴人と前記売買について打合せて事実上合意したうえで、四日に右売買契約をしたこと、訴外会社は一一月五日決済資金の不足により手形が不渡りになり、直ちに営業を停止して倒産し、以後は債権債務の整理をしていること、以上の事実が認められ、原審証人竹井治幹の供述中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして信用できず、他に右認定に反する証拠はない。

以上認定したところを前提とすると、控訴人が一一月四日被控訴人との間で前記売買契約をした際、竹井がヨーダイに決済資金用の手形を交付したため訴外会社が五日に手形の不渡りを出して倒産することが必至となつていたことに気付かなかつたことについて重大な過失があると解することはできないし(訴外会社は昭和五一年末頃から経営不振の状況にあつたが、経営不振の原因、訴外会社とヨーダイの特殊な関係、竹井が一存で行動していること等前述の事情を考慮すると、控訴人が経営不振の状況から訴外会社の倒産を予測しなかつたことについて重過失があるということはできない。)、他に控訴人がその職務を行うにつき重大な過失があつたと解すべき事情を認めるに足りる証拠もない。

3  従つて、控訴人が職務を行うにつき悪意又は重大な過失があつたと認めることはできないので、その余について判断するまでもなく、控訴人には商法二六六ノ三による損害賠償義務はない。

三  よつて、被控訴人の本訴請求は棄却すべきであるところ、これと趣旨を異にする原判決は取消すこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する次第である。

(裁判官 倉田卓次 高山晨 大島崇志)

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